杉本大地監督のワークショップに向けた座談会


この座談会は(A日程)2017年9月9日~10日、(B日程)9月14日~15日、(C日程)9月18日~19日の3回行われる「杉本大地監督による俳優のための実践的ワークショップ」に備えて行われたものである。

文頭の太字の「杉本」は今回のワークショップ講師である杉本大地監督の発言を現し、「登山」は今回製作する杉本監督の映画のプロデューサーとなる登山里紗さんの発言、「松枝」は当アクターズ・ヴィジョンの代表の松枝佳紀の発言を現す。

—–
 
松枝 杉本監督はワークショップってやられたことありますか?

杉本 ワークショップという名目でやったことはないですけど、俳優の観察や訓練なども含めて撮影自体半年以上かけてやるので、それをワークショップと言ってしまえば言えるかもしれません。

松枝 そういう時に、杉本監督は、参加者はどうやって選んでいるんですか?

杉本 最初の作品である「あるみち」に関して言うと、あの話は俺自身の話なんで、言ってみれば自伝わけです。だから、自分の中に強いイメージがあるので、この人は外せないなって人が、すでに知り合いの中にいて、そういう人にお願いしていく感じで参加してもらいました。

松枝 ということは、「あるみち」は杉本さんご自身の話だから、登場人物もみんな本人がやっているということですか?

杉本 いえ、そういうことじゃないです。

松枝 ん、どういうこと?

杉本 今まで生きていた中で知り合った人から選ぶしかないから選びましたが、それは必ずしも本人だから選んだというのではなくて、その役にふさわしいかどうか、あるいは、その役を演ずることが出来るかどうか、さらにどれぐらい訓練すれば演ずるようになれるのか、とか、そういうのを計算してキャスティングをしたということです。

松枝 あー、なるほど。そうなんですね。てっきり本人たちがやってるかと思いました。

杉本 そういうわけではないです。この役をやるんだったら、こいつかこいつで。で、代わりでいけるんだったらこいつかな。みたいな感じで選んでいます。それでも、みんな素人なので、撮影に馴れるまで時間がかかってしまいましたけど。

松枝 でも、そういうことで言うと、杉本さんの自伝だからって杉本さんが主演をしなくてもいいわけですよね。

杉本 そこに関しては、スケジュールやコスト的な面も考えて、すべてにおいて、自分がやるほうがいいと判断しました。何回も撮り直しができるし。それに、座組を支配するって意味では、たとえば出演者や協力者たち友達とのコネクションもすべて俺が掌握しているんで、いろんな協力も、俺じゃないと引き出せない…そういうことも考えて、主演は自分で行こうと決めました。

松枝 お母さんも、お母さん役で出ていますよね。お母さんにはどんな演出を?

杉本 逆に、母からは沢山アドバイスをもらいました。「あるみち」は俺の自伝なんで、あの時はどうしたとかこうしたとか、母のほうが覚えているので、脚本も早い段階から読んでもらって、チェックしてもらったり。

松枝 あれを撮られたとき、杉本監督はおいくつだったんですか?

杉本 20か21です。

松枝 で、完成が22?

杉本 22ですね。

松枝 その段階では賞を獲るっていうのは想定していたんですか?

杉本 大学に入って脚本を初めて習って、それで書いたのが「あるみち」なんです。そこから冬休みに勝手に撮影してみようと始めて。映画祭は、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)ぐらいしか知らなかったので、ぴあ入選するっていうのを、とりあえずの目標にしました。

松枝 そうなんですねー。そんなかんじで、目標達成しちゃうだけじゃなくて、グランプリを獲っちゃうっていうのがすごいですね。自信はあったわけですよね。

杉本 別にそういうわけじゃないんですが、「グランプリ獲るぞ」くらいのことは言っていましたが、自信があったからというよりも、そう言わないとまわりが手伝ってくれないんで言ってた感じです(笑)

松枝 ベルリン映画祭にいくっていうのはそこからどういう経緯でなったんですか?

杉本 PFFで、6月に入選が決まって、7月からグランプリを獲るまでに、ベルリン国際映画祭のプログラマーの方が見に来ていたらしくて。9月にグランプリを獲り、年明けにベルリンが決まったって聞かされました。

松枝 ベルリンのなんて部門?

杉本 フォーラム部門です。コンペティション部門の1つ下に位置付けられている部門みたいです。自分の時だと桃井かおりさんが、監督された「火 Hee」でいらっしゃっていました。

松枝 ベルリン国際映画祭に行くなんて予想していました?

杉本 していませんでした。

松枝 だいぶ嬉しかったんじゃないですか?

杉本 もちろん嬉しかったんですが、素直に喜べなかったところもあって。

松枝 どういうことですか?

杉本 ちょうどその時、次の作品である「同じ月は見えない」を撮影中で、それが気になったまま日本を離れたのと、PFFで賞を獲るのは自分の中で多少は予想していたんですけど、ベルリンに関しては全く予想外というか、獲らせてくださいとお願いしたわけでもないので、なんだか不本意な感じのままベルリンに行ってしまって、だから素直に喜べなかったんです。

松枝 ははは(笑)大物ですね。

杉本 結局、ベルリンに行けたのは、俺の力じゃないと思うんですよ。ぴあの力なんです。だから、俺がベルリン行ってやったぞって顔ができないのがけっこう不本意じゃないですか。

松枝 ぼくは登山さんに言われて、杉本さんの「あるみち」を観させていただきました。見てみてとんでもない衝撃を受けたというか、とっても気持ちの良い映画で、こういう若い監督が日本に居るんだと嬉しくなった。それで、登山さんにぜひ杉本監督でワークショップをしたいと話したんです。

杉本 ありがとうございます。

松枝 そもそも映画を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

杉本 言い方が難しいんですが、簡単に言っちゃうと、トカゲの代わりというか。

松枝 え?トカゲ?「あるみち」に出てくるやつですか?

杉本 そうです。

松枝 映画はトカゲの代わり?

杉本 トカゲの代わりというか、トカゲ捕りの代わりというか。

松枝 というと…

杉本 「あるみち」のファーストシーンは子供の頃の俺なんですね。トカゲについて語っている。

松枝 そうですよね。

杉本 あの頃の、トカゲ捕りをやったときの、自分のアドレナリンの出方っていうのは自分でも覚えてるんです。本当に夢中でした。

松枝 ええ、まあ、「あるみち」を見るとそれは十分わかります。
 
杉本 だけど、大人になるにつれ、トカゲ捕りはできなくなるんです。もっと小さいころはトカゲ捕りに友達含めてみんなで夢中になれたんですけど、小学校の高学年とかになると、トカゲ捕りしてるっていうのが言いづらくなってきて。東京でトカゲを捕る人っていうのは本当に肩身が狭いんですよ。他の子供たちは皆サッカーとか水泳とか習い事してて、自分だけやってなくて。

松枝 なるほど(笑)

杉本 小学校高学年くらいなんですけど。考えたんです。このままトカゲを捕り続けるか、それとも、皆みたいに別の道に進むか。みんなから遊ぼう、サッカーやろうって言われても、おれは今日家でゆっくりしたいって嘘をついて、こそこそトカゲ捕ったりとか、散歩したりとかしてたんです。なんですけど、中高になってトカゲから離れて俗にいう普通の生活に戻ってしまったんです。色気づいたんですね。イケてる友達ができてしまって、そいつと親友になった。それで毎日が楽しくなって、こんな楽しいちやほやされる世界もあるんだってなってしまって。そして、そういうイケイケのノリからバイクに行くのっていうのはけっこう必然なんですよね。それでバイクにハマった。地元の先輩とか練馬区という土地柄もあって、バイクと言えば、そういう系のバイクになっていって、気づけば、不良文化に憧れてしまっていたといいますか…。それが意外にもトカゲ捕り並みに面白くて!そして、トカゲ捕り並みに面白いのに肩身が狭くない(笑)それどころか、ちょっとカッコイイ感じさえある。トカゲよりバイクや不良は社会的に認知される。胸を張ってできる(笑)

松枝 なるほど(笑)

杉本 なので、自分はバイクに没頭しすぎちゃったんですよね。結果、よろしくない方までいってしまって。で、ある時、バイクがカラーボールでペイントされちゃったんですよ。もう乗れないやってなって、それでバイクを売っちゃって。同じころ、仲間の何人かにちょこちょこ捕まる人がでてきたんですよ。で、自分は捕まりたくないなって思って。そういうのもあってバイクは辞めたんです。バイクは楽しかったですけど、今思うと、興奮するっていう意味では似ているけど、トカゲに代わるものではなかったなって。じゃあ、何がトカゲの代わりになるんだろうと考えたときに思いついたのが、映画なんです。

松枝 なるほど、それで映画はトカゲの代わりということなんですね。

杉本 そうなんです。

松枝 「映画だ」って思ったキッカケってあります?例えば何か影響を受ける映画を見たとか。

杉本 んー…これといって思い当たらないです。

松枝 じゃ、どうして映画を?

杉本 小さい頃にカメラを回した事があって。

松枝 「あるみち」の最初のシーンのやつですよね。

杉本 はい。

松枝 あれ、よく自分でカメラ回してる姿を撮ってたよなって思いました。子供のころの自分の映像使っていつか映画を撮るなんて思っていたわけじゃないですよね?

杉本 それはありませんけど、実は親がテレビのドキュメンタリーや報道のフリーのディレクターなんです。ドキュメンタリーとか報道の。

松枝 ああ、そうなんだ! だから、あの子供の時の映像、あれ、トカゲのルポルタージュだよね。あああ、そういう影響なんだ。

杉本 そうです。あれ、親のテレビ番組のマネをしてるんです。だから、そう考えると、親がそういう仕事をしているから、映画を選んだのかもしれないです。それで、大学入って映画を撮った、という流れです。

松枝 じゃ、いわゆるこの映画に影響を受けてとかそういうのはないんだね。

杉本 そうですね。その時までは、イケメン俳優、旬な女優、お正月にやりますみたいな映画しか観たことなかったですね。

松枝 最近は?

杉本 大学に入ってから、映画を撮り始めて、映画が身近になってるんです。だから見るようになりました。こういう風に撮れるんだ、こういう撮り方面白いなとかいう風に見ることが出来るようになった。撮るようになってから映画を見るようになった。で、今、おれ、映画を選んで良かったなって思っているところです。

松枝 トカゲに代わるものを探して。代わるものに出会ったわけですね。

杉本 って思い込みたいけど、どうなんですかね…。本当に映画がトカゲの代わりになっているのか懐疑的なところもあるんです。というのも、たとえば、ベルリン映画祭に行けましたとか喜ぶのは、「快楽」じゃないと思うんですよ。お客がたくさん入って儲かったとかも、喜びが「快楽」には結びつかないというか。利益だったりとか、お金が入ってきたりとか、名誉だったりとか。そういう喜びって、トカゲを捕まえたときに得られるある種「快楽」とかに比べると、違うんじゃないかという疑念があります。

登山 ベルリン映画祭に行った時でさえ、撮影のことが頭から離れなかったというのは、映画を撮ること自体に「快楽」があるっていうことですよね?

杉本 もちろん、邪まな欲望もありますが、どうして受賞したいかと言うと、みんなによりよく手伝ってもらうためなんですよ。時に悲しい事だと思っているんですが、目に見える形で社会的に認知されるということになると、みんなが気持ちよく、嬉々として協力してくれるんです。トカゲ捕りも同じなんです。自分がすごい奴だと認知されるとみんな手伝ってくれる。自分が謎な奴だと誰もトカゲ捕りを手伝ってくれない。

松枝 なるほど、受賞自体に欲望があるわけではなく、映画作りを進めるために受賞を餌にしてみんなから協力してもらっているという…

杉本  言い方悪いけど、そうなっちゃいますね…(笑)俺こういうの撮りたいんだと、撮る前のモノを言葉で説明しても上手く伝わらない。それでみんなが不安になってくるのが伝わってきます。それに比べると、「ベルリン」とか「ぴあのグランプリ」とか、って目に見える形で共有ができるので。

松枝 ちょっと話を変えて、今回、プロデューサーをすることになる登山さんにお話を聞きたいんですが

登山 はい。

松枝 今回、杉本大地監督のワークショップをやろうと考えたのはなんでなんですか。

登山 新しい才能を発掘したいっていうのが何よりも一番にあります。それは、かつて松枝さんのワークショップで発見して「無伴奏」にキャスティングした遠藤新菜ちゃんのような役者さんもそうですけど、監督についても発掘したいという思いがあるんです。それで、最近PFFに通い続けています。そこで杉本さんを発見して。「あるみち」を見たのはグランプリを獲る前ですけど、こんな映画観たことないぞって思って、監督のサイン会みたいなのがあって、そこで杉本さんに名刺を渡して言ったんです。「『あるみち』がグランプリを獲ると思います」って。

松枝 言われたの覚えてます?

杉本 はい、覚えてます、その時は賞を獲れるかどうか、気が気じゃなかったんで、すごくうれしかったですね。

松枝 でも、登山さん、あえて聞くんですけど、杉本監督のプロデュース作品をアクターズ・ヴィジョンでやろうとしてるのはなぜなんですか?矢崎仁司監督の「無伴奏」を成立させた登山さんなら、杉本さんで、池松くんとか、有名キャストをがんがん使ってやることもできると思うんですけど。

登山 そういうやり方をすることは杉本さんにとって良くないなって思ってるんです。ここまで作家性が確立できている監督が、普通の商業映画の撮影システムに合わせることで、その作家性を失ってしまったら、才能を潰してしまう可能性があると思うんです。杉本さんは普通の商業映画の制作より役者さんとの準備や撮影に時間をかける監督なので、普通の商業映画に出演される役者さんを同期間拘束することは難しいと思うので、杉本さんのステップアップとなる作品として、ピンポイントで有名な俳優さんに出演していただきたいと思いますが、出番が多い役は時間がある役者さんたちをキャスティングすることで、「あるみち」と同じように濃いものを作り、海外の映画祭を中心として作家として認められることを優先するべきだと思っています。モデルは、『サウダーヂ』や『バンコクナイツ』の空族です。そのときに、アクターズ・ヴィジョンさんと組めるのはお互いにメリットがあると思っています。あと、一から杉本さんの海外戦略を考えたいというのもあります。監督も若いころからある特定の映画祭のお気に入りの監督にならないとなかなか後から入れてもらえないっていうのが実感としてあるので、具体的に映画祭狙いで作っていけたらと思います。

松枝 賞とかお金とか社会的認知の部分は登山さんが担って、杉本さんがトカゲ捕りに集中できる状況を作れるといいですね。

登山 そう、杉本監督には映画の内容だけに集中してもらいたいです。

杉本 これまで何でもかんでも自分ひとりでやってきました。監督だけでなく、プロデュースにしても、制作にしても全部自分でやってます。だからこれまでは自分の周りには、自分より上の立場で関わってくれる人が居ませんでした。でも映画を大きくするうえでもっと高い視点から見てくれる人が必要だと常々思っていて。だから、今回、登山さんが現れてくれたのは、本当にラッキーなことだと思っています。

松枝 ちなみに、杉本さんはどうなんですか?自主制作のようなところから早く抜け出して商業映画を撮りたいとかはないんですか?

杉本 「あるみち」が終わって、それはそこそこうまくいって。で、その次の話に商業の話をいただいたことがあるんです。ただ、その時大学の卒制で新作の撮影の佳境でその事で頭がパンパンだったり、頂いたお話がオリジナルの原作ではないというところも、その時の自分には引っかかるものがありました。それをやっちゃうと、俺の代表作がそっちになっちゃうじゃないですか。「あるみち」は忘れられてしまう。それに世間からそっちの方が面白かったって言われたら悔しいじゃないですか。まあ、結局その映画の話は無くなったんですけど、自分のフィルモグラフィーをどうしようかとか、考えるようになって。登山さんが言われるように、いまはまず杉本大地のカラーを出していくことが先決かなと思っています。そのカラーが明確になってから商業映画を撮るっていうのはぜんぜんありだと思うんです。というかむしろ撮ってみたい。自分発信の映画では使わない脳みそを使うことになると思うんですよね。それはやってみたい。ただ、そのタイミングは今ではないんですよね。登山さんが、いま俺のカラーを出せるように、今回のプロジェクトをセッティングしてくれている。これはかなりの勝負だなと思ってます。

松枝 いま勝負をかけるとすると、それはどんな作品になると思っていますか?

杉本 最初の作品「あるみち」、次の作品「同じ月は見えない」、2本やって感じたのが、どうしても映画をやりたい、演じたい、人とやりたいってことなんです。いままで撮ったものは自分が無名だったのもあるし、身近なところでやらざるを得なかった。その問題は常に作品に対する熱量が俺のほうにあるってことなんです。出演者たちのそれが、こちらの熱量を上回ることはない。出演者も未経験者だから、こちらが何を求めているかばかりを探るんです。結果、俺の想像を超えてこないばかりか、芝居が死んでしまうんです。だから、こちらが合わせるしかなくなる。ここまでしかできなから、こうして、やっているように見せようとか。でも、本当は、こちらを食い殺してほしいと思っているんです。だから、今回アクターズ・ヴィジョンさんでやらせてもらえるということには非常に期待しているんです。自分の生きてきた時間を武器に映画に臨んでくれるんじゃないかと期待があります。そうでもしないと間接的に、役者に「いまのは死んでるね」とか言ってしまったりするので。

松枝 それ全然間接的じゃない(笑)

杉本 でも全然通じなかったんです。

松枝 まあ、キミ死んでるよと言っても、じゃあ生かしますとはならないもんね。もともと、俳優側で生きてくれないとね。

杉本 役者に助けてもらいたいと思っています。自分は脚本も未熟だし、演出もそうだし、全体的に未熟なんですよ。なので、そこはある意味、役者に面白い人がいて、こちらのアイディアを生きてくれて、そういうこともあるんだと、こちらを拡げてくれるというか、助けてくれるんじゃないかという期待があるし、きっとそれが一番楽しいことだと思ってるので。

松枝 素晴らしい。杉本大地監督に、俳優っていうのはこういうこともできるんだぜというところを見せてくれる人、希望を持たせてくれる人、一緒に映画作りを楽しんでくれる人、大募集ですね。

杉本 はい。本当に楽しみにしていますし、そういう俳優たちと作る映画のことを考えてワクワクしています。

2017年7月21日 新宿三丁目にて

ワークショップの詳細は → こちらをクリック