成島出監督インタビュー


このインタビューは2017年3月25日から各週土曜日、4月15日まで行われる成島出監督による俳優のための実践的ワークショップに備えて行われたものである。聞き手はアクターズ・ヴィジョン代表の松枝佳紀。
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松枝 映画「ソロモンの偽証」は大々的なオーディションを公募で行い、集まった1万人の中から、まったく無名の新人、当時14歳だった藤野涼子さんが主演に抜擢されました。最近の日本映画史上なかなか画期的なことだと僕は思っているんですが、この「一般公募オーディションによる主人公の抜擢」というアイディアは、成島さん自身の発想だったのでしょうか?

成島 そうです。僕の考えですね。

松枝 なぜ、そのような方法を採ろうと思われたのですか?「ソロモンの偽証」規模の映画ですと、既に売れているアイドルを主人公に立てて撮るというようなことが、良いか悪いかは別にして、一般的に取られている方法のようにも思います。

成島 たしかにお金集めを考えると、アイドルで撮るという手もあった。

松枝 しかし、そうしなかったのはなぜですか?

成島 なにより、宮部みゆきさんの書かれた原作「ソロモンの偽証」の志が高かったのが一番大きい理由です。中学生たちが自力で自分たちの置かれている状況と戦い、しかし苦戦し、でもそれを変えていくという話です。それにふさわしい意志のある子たちを見極めたかった。

松枝 そして藤野涼子さんをみつけた。彼女は映画を見ると立派な主演です。1万人集まった中でもダントツ輝いていたんでしょうね。

成島 いやいや、むしろ落選ギリギリだった。三次選考ぐらいまでは僕はみなかったんだけど、よくぞ残ったという感じだった。あと一票足りなかったら会ってなかったぐらいのギリギリ。

松枝 でも成島さんが会った瞬間に「彼女だ!」となった?

成島 いや、会った瞬間ということではないですね。半年近くずっと一緒にワークショップやって、変わっていったその姿を見て、最終的には彼女に賭けようかとなったんです。藤野涼子と板垣瑞貴の主役二人は、当初一番下手で落第候補だったんです。他の監督の作品だったらオーディションなんかも通らない感じだと思いますよ。まあ、でも半年訓練をすることによって少しずつ可能性は見えてきた。それで賭けてみようとなったんです。

松枝 意外です。映画を見ると「彼女しかいなかっただろう」という感じになってる。

成島 最初はそうではなかった。

松枝 最終的に何人くらいを訓練のために選んだのでしょうか

成島 オーディションのあとに200人残して、それからワークショップやって、その200人が毎回削られて、最後に33人の1クラス分だけ残した。

松枝 撮影に入った時には、もう仕上がってる感じでしたか?

成島 いやいや、入ってからもまだまだ大変でしたよ。まあ撮影が二カ月あったので、その間にもだんだんゴールに向かって成長していく感じでした。

松枝 なるほど。彼女たちにとっては撮影自体がとてつもなく巨大なワークショップになったんでしょうね。物凄く恵まれた環境ですね。ちなみに、今後そういう、公募オーディションでヒロインを抜擢するというような形で、映画を撮りたいとかありますか?

成島 企画によります。でも、やっぱり、ありますよ。10代後半~20代前半でまだ世に出てないけど凄い良い人とかいれば、その子を主役で抜擢して撮りたいという思いはあります。

松枝 基本的には、若い人なんですかね?

成島 まあ、歳とった人は名バイプレイヤーになるというのはあるけど、主演はなかなか難しいよね。何度かご一緒している小日向文世さんだって、いまでこそ主演映画があるけれども、売れるまでは主演なんて難しかった。

松枝 若くない人は脇役で頑張ってのし上がって、自分でメインを掴んでくれってことですね。

成島 そうそう。でも良い人がいれば、そのブレイクのきっかけになるような使い方を僕はすることはできるので、そういう人にも会いたいとは思っています。

松枝 「ソロモンの偽証」規模の映画で主演を含めてメインキャストをほとんどオーディションで採るというか、そのうえワークショップも半年の長きにわたって行い、俳優たちを磨いていく、というようなことは、いまの日本の映画界では成島さん以外は考えないことのような気がします。どうしてそんなことをしようと思ったんですか?

成島 いや、映画にとってそれは珍しいことじゃないんです。まったく無名の新人だからこそハマると大爆発するというのは歴史が証明している。映画「ローマの休日」のオードリー・ヘップバーンもそうだし、映画「レオン」のナタリー・ポートマンもそう。新人が一夜にして「世界のヒロイン」になれる。それが映画だと思うんです。

松枝 僕の師匠は二人います。二人とも亡くなってしまったんですが、ひとり目が「ビーバップ・ハイスクール」の那須博之、ふたり目が「赤目四十八瀧心中未遂」の荒戸源次郎。二人に共通するのが、新人を大抜擢するのが好きだったということです。

成島 映画は新鮮なものが強いんです。見たことないもの、初めて見るものが強いんです。だから、手垢が付いてない新人俳優っていうのはやっぱりいいんだよね。

松枝 今回、アクターズ・ヴィジョンで俳優のためのワークショップをやっていただくんですが、普通は、こういうワークショップ講師の依頼は、成島さんは断られているということでした。

成島 そうですね。断っていますね。でも、映画のためのワークショップはやってますよ。

松枝 映画のためのワークショップというのは?

成島 キャストが決まって、クランクインするまでにやる、特訓というか訓練ですね。これから公開になる「ちょっと今から仕事やめてくる」(2017年5月27日公開予定)でも、やりました。(福士)蒼汰と(工藤)阿須加に対して半年ぐらいやった。

松枝 そうなんですね。それは他のキャストもいるんですか?

成島 いや、ふたりだけ。

松枝 先日、試写で見せていただきましたが、福士蒼汰くんと工藤阿須加くんの友情がスクリーンを通して伝わってきました。あれは半年のワークショップを通して築いた本当の友情だったんですね。だからあんなに胸を打つものになっていた。

成島 とくに(福士)蒼汰は売れっ子過ぎて、演技をちゃんと訓練されたことがない。だから、今回ワークショップをやって、芝居をすることの本当の面白さに気付けたと言ってもらえて本当によかった。

松枝 しかし、何度も本番を繰り返す演劇と違って映画は新鮮さが命というところがあるような気がします。なので、練習というようなものを映画はあまりやらない。新鮮さが無くなってしまうから。そんな気がするんですが、でも成島さんのお考えでは、練習をしても新鮮さは無くならないということなんですよね。

成島 たしかに本番と同じようなことを何度も何度もやってしまうと、そりゃ新鮮さは無くなっちゃいますし、味気が無くなってしまう。でも逆に新鮮さを増すための訓練というのもあると思うんですよね。例えば、本番でやるシーンにないこと、シナリオに書かれてない場面をやってみるとかですね。出会いのシーンを劇的にしたいんであれば、出会ったときの喜びを増やすための、思い出とか、執着心とかを増やすための試行錯誤はできるはずです。それによって、クランクイン後の、現場での芝居を、より新鮮に、そして深いものにすることが出来る。

松枝 なるほど、より新鮮にするための訓練、それが映画のためのワークショップですね。

成島 そうです。

松枝 で、今回アクターズ・ヴィジョンでワークショップをやっていただくわけですが、これは次の作品ありきでやる「映画のためのワークショップ」ではないですよね、なのに、なぜやっていただけることになったんでしょうか?

成島 それは松枝くんが「うちの参加者は魅力あるし、即戦力だ」っていうから(笑)そんなに言うなら、その集まる俳優たちを見てやろうというのもあるし、それに8月にはまた新しい現場があるし、その先もある。配役は決まっていないけど、そこに向けた「映画のためのワークショップ」としてやるのはありかなと思って、今回やることにしたんです。

松枝 それは本当にありがたいです。ありがとうございます。

成島 いえいえ。

松枝 でも、成島さんのやり方は稀有だと思うんです。

成島 というと?

松枝 おそらく他の現場では俳優訓練にそんなに時間をかけないと思うんです。なにより半年のワークショップをやるって普通じゃないです。

成島 たぶん、そうだろうね。

松枝 成島さんが、そういうキャストが決まった後、撮影前の「映画のためのワークショップ」をしようと思われたのはいつなんですか?

成島 映画「孤高のメス」(2010年公開)の時かな。それまではリハーサルをやると言っても、本読みしか出来なくて、舞台はあんな一か月もかけて作るのに、なんで映画はこんなに時間かけれないんだ、と思ってたんです。しかし、とくに「孤高のメス」はオペシーンがあったり医者の話だから、台本読んで集まってすぐ撮影という感じで出来るようなものじゃなかった。だから、実際にお医者さんに来てもらって、俳優さんたちにオペの練習をしてもらったんですよ。

松枝 手術のシーンとかだと、手元だけ医者の本当の手を使うみたいなことが多いですね。

成島 そうです。でも僕は手術シーンも含めて俳優にやってもらいたかった。

松枝 それで、ワークショップをやることにした。

成島 そうです。でも、オペの手元練習だけじゃつまらない。シナリオの流れでやってみようということになって。芝居をやりながら手術シーンの稽古をした。そうしたら色々見えてくることがあったんです。それでリハーサルって有意義だなとその時に気付いた。実際「孤高のメス」はそのワークショップをやったおかげで、本番中、俳優たちが芝居にいままで以上に集中できた。で味をしめて、引き続き「八日目の蝉」でもそのワークショップをやってみた。それが今まで続いているという感じかな。

松枝 まさか、「ふしぎな岬の物語」(2014年8月公開)でもワークショップやったりしてませんよね?天下の大女優、吉永小百合さんですからね。

成島 いえ、もちろんやりました。

松枝 ええ!やったんだ(笑)。それはどのくらいやりましたか?

成島 でもあれは三日か四日くらいかな?忙しいメンバーだったので。

松枝 そういう経験はきっと吉永小百合さんも初めてでしたよね。

成島 そう言ってたな。

松枝 でも、吉永さんとかはかなりのベテランじゃないですか。何をされるんですか。当然発声練習とかじゃないですよね。

成島 もちろん、もちろん(笑)。俺はこのシーンをこういう風に持っていきたいということと、あとはこういうシーンを作っていきたいという吉永さんの考えとを確認し合う場だね。

松枝 意見の擦り合わせみたいなことですか

成島 そうそう。だから本には書いてないところを詰めた。たとえば「笑う」と書いてあってもそれはどのレベルのどういう種類の笑なのかとか、そのときにどのぐらい明るく振舞うのかとか、落ち込んでいるとしても人生のどういう場面の落ち込み方なのかとか、現場で話し合っていたら時間が絶対なくなるようなことを話しましたね。お互い何を目指しているのかを現場に入る前に知っておくことは、互いに現場がやりやすくなりますからね。

松枝 その時には吉永さんと成島さんだけではなくて、他の人も?

成島 そう。

松枝 じゃあみんなで車座になってみたいな

成島 そういう場合もあるし、吉永さんと鶴瓶さんとか、シーンによって色んな組み合わせでやったりもした。

松枝 それは非常に面白いですね、他の監督やらないですもんね

成島 僕の師匠の相米慎二の時代だと、現場で試行錯誤をする時間も、俳優たちの体力もあったと思うんですよ。「もう一回、もう一回、もう一回」ってやれた。でも、いまの時代は、キャスト決まって、会うのは衣装合わせで、お祓いやって、クランクイン。本質的な軌道修正は、クランクイン後は難しい。でも、「映画のためのワークショップ」というかリハーサルをクランクイン半年前ぐらいからやっておけば、「こいつの欠点はここだ」とかとかいうことも含めて、直したり、対応したりすることが出来る。そうしておけば現場が速く回る。芝居に俳優を集中させてあげることが出来る。だから、映画をより良くするために、このクランクイン前のリハーサルというか映画のためのワークショップというのは大変有効だし、これからもやっていこうと考えています。

松枝 今回、アクターズ・ヴィジョンでワークショップをされるにあたって、毎週土曜日の、各週1回の四回にしたいと提案していただきました。

成島 続けて四日とかしても意味が無い気がして。俳優の成長が見られない。1週間あけても、見られないかもしれないけど、間に6日ある。その間に、僕の言ったことをどれだけ深めて来たのかを見ることが出来る。

松枝 たしかに。でもなかなかハードなことになりそうです。毎週土曜日成島さんにみていただくわけですが、残りの日々も俳優本人の中ではワークショップは続いているわけだから。

成島 毎日変わることが出来る。続けるとかなり人は変わる。

松枝 そう思います。

成島 そして俳優と向き合うには人数も限られたほうが良い。

松枝 はい。今回は異例づくめで、いつもは40人近く一クラス俳優たちが集まっちゃうんですが、今回は20人限定にしました。

成島 松枝くんの言うように「魅力ある子たち」に会うことが出来ることが何より楽しみだね。その子たちが、僕の言葉でちゃんと俳優になっていくのを見届けることこそ喜びはない。

松枝 その中から、「世界のヒロイン」「世界のスター」が出てきてくれると本当にうれしいです。

成島 本当だね。何をやるか真剣に考えなくいけないね。

2017年2月28日、新宿三丁目にて

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成島出監督による俳優のための実践的ワークショップ