吉田恵輔監督インタビュー2016年8月


2016年9月22日から25日までの4日間で開催されるワークショップの講師である吉田恵輔監督にインタビューをしてきました。聞き手はアクターズ・ヴィジョン代表の松枝佳紀です。

ワークショップについては次のURLをご覧ください。http://alotf.com/ws/vision004/

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松枝:突然ですが、吉田さんて俳優と友達になりますか?

吉田:人によりますね。でも基本的に飲みましょうって言われたら、興味ない人でも一応飲んでみる。飲んでみれば何かあるかもしれないなと思って。

松枝:飲んでみてよかったみたいなことって…

吉田:ある。けっこうある。恋愛話とか、普通の飲み会みたいな下世話な話でも、意外性ある話が聞けたりとか、ままありますよ。お前そんなことしちゃうの?みたいなことが聞けることが結構ある。合コンだとかで話すと、とくに可愛い子とかだと、恋愛話はだいたい自慢話みたいになっちゃうことが多いけど。でも個人的に飲みたいかって言われたら微妙だなって子の経験のほうが、逆に面白い(笑)。特殊な思いを持っていたり、屈折していて、そういうのが、もう愛おしい(笑)

松枝:じゃあ、可愛い子の恋愛話には興味がない?

吉田:いや、そっちはそっちで面白いわけ。そういう人の勘違い話とか聞いていて面白い。たとえば、どんだけ自分のこと可愛いと思ってんのかっていうのがニジミ出てるのとか、ちょっと意地悪な視点から見て面白い。「あたし、そんなにモテないんですよ」とか言いながら、気付いたら「お前モテる話ばっかりしてるんじゃねえか笑!」って突っ込みたくなることとかよくある。わりとそういう人間の「突っ込まれたら嫌だよね」っていう部分を見るのが楽しいんだよなあ。

松枝:もはや、それは吉田恵輔映画のための取材みたいなものですね。

吉田:結果としてそうなってるかもしれないけど、でも単なる興味で聞いてるだけで。まあ、何らかの形で、俺の中に残っていて使ったりすることも無きにしも非ずなんだけど。

松枝:取材ということで言うと、たとえば、映画の出演者とは、撮影前にそういう話を聞くっていう時間があったりするんでしょうね?

吉田:いや、出演者は、クランクインまでは、顔合わせとか、衣装合わせとかそういうところぐらいでしか会えないので、そんな話をすることはなかなかないですよ。むしろ、映画が公開されてから舞台挨拶とかキャンペーンの地方回りとかのときに話すことが多い。終わった後にこそ、飲みに行ったりして話します。

松枝:ということは、その作品のために、話を聞くというわけではなく…

吉田:基本は興味で聞いてますね。だいたい、アイドルグループとかにいて売れている人の考え方とかを聞く機会ってあまりないじゃない。だから、聞いてみると面白い。

松枝:やっぱり我々とは違いますか?

吉田:もちろん違うところもあるし同じところもある。東京ドームで唄うのと、コンビニでバイトするのと、見かけ大きな違いはあるけど、やってることは大差はないところもあったりしたりで、面白いですよ。

松枝:そもそも、吉田さんは映画をいつから撮ろうと思っていたんですか?

吉田:幼稚園くらいかな。

松枝:え!

吉田:みんながサッカー選手になりたいって言ってるときに映画監督になりたいって言ってた。

松枝:それ早すぎませんか?笑

吉田:もう映画監督が何をする人か分かってないで言ってた。ジャッキー・チェンの映画とかが子供の時好きだったんだけど、この面白いもの(=映画)を作る人になりたい。僕も作りたいって思ったんだろうね。それで、子供だから、プロデューサーがいるとか、脚本家がいるとか、よくわかってないから、映画を作る人イコール映画監督と思ったんだと思うんだよね。それからずうっと映画監督になりたいって言っていて、小学校の卒業文集にも「映画監督になる」ってずっと書いてた。

松枝:ええ、そりゃすごいな、すごいですよ。

吉田:なれたからいいけど、なれなかったらやばかったよね(笑)ほかの進路なんて一回も考えたことないもん。

松枝:吉田さんの撮られた「ばしゃ馬さんとビッグマウス」は、シナリオライターになる以外に自分の運命は無いって思っていた主人公が数々のチャレンジをした挙句結局自分の夢を諦めるって話でした。たしか、吉田さんご自身の経験と脚本を書かれた仁志原了さんとの実体験を元に描いた話ですよね。ってことは、幼稚園の頃から映画監督になるのが当然と思っていた吉田さんも、夢を諦めようと思うギリギリまで行ったことがあるってことですよね?

吉田:そう。10年ぐらい映画を撮っても撮ってもどこからも評価されずに、それこそ深川(栄洋)くんとか、「がんばれよ」って僕が言ってた人が先に監督になっちゃったりして、それこそ「ばしゃ馬さん…」に描かれているけど、自分が頑張れよって言ってた人の授賞式を金出して見に行くっていうような哀しいことになって(笑)。それで終いには、「ぴあ」とか「ゆうばり」とか映画祭に引っかかるための「傾向と対策」で映画撮るようになっちゃって、そもそも自分が何を作りたかったのかもわからなくなって。それで俺は27歳になって映画監督になれてなかったら手に職付けるって、高校生の時から言っていて。それはカッコつけるために言っていて、というのも、むしろ27までには絶対映画監督になってるって思ってたからなんだけど、そしたらもう27を越えているわけですよ笑、それで、一応27で手に職付けると決めていたこともあって、映画を撮るのをいったん止めて、照明やったりして手に職付けようとやってたんだよね、1年半ぐらい。でもさ、これも「ばしゃ馬さん…」で描いていることだけどさ、たとえ夢を諦めても、一生死ぬまで「あの時もうちょっとやってれば」とか後悔するんだろうなと思って、なかなか辞められなかったりしていて、じゃあ、やめるなら、どうにもなんない自分を見て、「こんだけやってダメだったんだから、もういいや」と思えることをやろうと思って。それで悪あがきで、最後に3本だけ作ることにしたんだよね。

松枝:で、それを映画祭に出して最後の賭けに出たということですね?

吉田:いや、この最後の三本は映画祭に提出するとかもうどうでもよくて、本当にやりきったと俺が思える三本を撮ろうと思った。一本目が「なま夏」で、二本目が「メリちん」で、三本目が「机のなかみ」で。そしたら、予想外に、一本目がグランプリ取ってDVD化が決まっちゃって。その知らせが来たのが、「メリちん」作り終わってるぐらいの時に、「机のなかみ」を自主じゃなくて、商業で作ることが決まってしまって、「メリちん」どうしていいかわかんなくなっちゃって(笑)。

松枝:「メリちん」見てないです。

吉田:ソフト化されてないんで、映画祭とかでちょっと上映しただけなんだよね。でも、「メリちん」は正直、ぴあとかで賞取ると思ってた。「なま夏」はオナニー映画だけど、「メリちん」は、オナニー映画の部分もあるけど、傑作だとも思っていて、「なま夏」じゃなくて、これで賞を取るつもりだった。

松枝:なのに、「なま夏」が賞を取ってしまって…

吉田:そう、「メリちん」が宙に浮いてしまった。ていうかおかしいじゃん。デビュー決まってる人が、ぴあとかに新作を出すって笑、もう賞取ってるのに笑

松枝:たしかに笑

吉田:かわいそうなのが「メリちん」の役者だよね。ごめん、俺だけ賞とっっちゃってみたいなことになってしまって、上映も難しくなってしまって。了さんなんだけどね、「メリちん」の主役は。 (了さん=仁志原了、「机のなかみ」「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「麦子さんと」の脚本を担当している人)

松枝:ええ!了さんなんだ。ますますみたい。

吉田:機会があったら上映とかしてますけどね…

松枝:しかし吉田監督のフィルムグラフィーが、「なま夏」以降完璧すぎて、それ以前の挫折時代が想像できないです。

吉田:俺としてはなま夏より前の作品は、この世にあるデータを全てなくしたいくらいつまんない(笑)「なま夏」がその分岐点のちょうど分かれ目ぐらいにあって、だから「なま夏」はまだちょっと恥ずかしい。へたくそもあるし。センスがなかった。

松枝:センスって急につくものなんですか?

吉田:つく。なんか急にコツつかむときある。スポーツとかでもあると思うけど。ある時、急にできるようになる。昨日までできなかったことが。あれ?なんで俺こんな簡単なことできなかったんだろうって思う。おそらく、俳優とかもそういうのはあるんじゃないかな。ある時、急にできるようになる。

松枝:急にっていうのは、もうどうしようもないんですかね?「待つ」しかないんですかね、その時が来るのを。

吉田:わかんないけど、たぶん、大事なのは「自分が何を好きか」が分かるようになることなんだと思うんだよね。「あ、おれってこういうの好きなんだ」って。で、「好き」って最強なんだ。だって「好き」なものってさ、他人に「微妙じゃない?」って言われても、「ああ、そうですか。趣味が違うんですね」で終われるけど、自分も微妙だと思ってると、「ああ、やっぱり微妙ですよね」ってなっちゃうじゃん。ファッションだってなんだってそうだと思うんだけど、「好き」は最強だと思う。

松枝:「好き」を貫くことによって、売れるようになるもんなんでしょうか?そうとも限らない気がするんですが。

吉田:「売れるか、売れないか」はまた別のベクトルだよね。「好き」を貫くのは「迷わないでいいことで迷わなくなるため」であって、「売れるため」じゃない。「好き」を貫いたって「時代」がそういう時代でないと売れない。時代が合えば売れる。いま僕の作品は「時代」に合ってるんだと思う。だけど、また別の「時代」がくれば、僕の作品は求められなくなるんだと思っている。でも、そうだからと言って「時代」に合わせて自分の「好き」を変更できないでしょ?だとしたら、「時代」にたまたま合って「売れた」ときは頑張るし、「売れなくなった」ら、もう「お疲れさま」しかないんじゃないかな。

松枝:園子温さんが「もう原作物はやらない」みたいなことを言われたらしいですね。吉田さんも基本的にオリジナルが多い監督のように思いますが、原作物をやることについてはどう思われますか?

吉田:うーん、そこにはこだわってないかな。やりたければやるし、やりたくなければやらないし。やはり、そこも同じで、自分の「好き」があるのなら「原作物」だってやる。その原作をリスペクトできなければやらない。「下手くそなもの作っちゃうかもしれないけど、たくさんいる映画監督の中では俺がこの原作を一番愛している」と言える状況じゃないと、ヒトサマのものを借りるわけにいかないでしょ?

松枝:たしかにそうですね。しかし、原作を馬鹿にしつつも、それを映画にしようという人がたまにいます。

吉田:ああ、いるいる。プロデューサーにも「この原作、ここんところ微妙なんですけどね」なんて言いながら映画化の話を持ってくる人もいるけど、そういうのはやらない。そもそも「微妙」なんて思っている原作をどうして映画化しようとするの?って話じゃない。「ここんところもう最高に好きなんですよ」とかあるならまだいいけど、ただ「売れてるから」とか、「いまこれ十代の女の子に人気なので」みたいなのは、原作にも映画にも失礼すぎる。

松枝:「原作」に失礼と言うその感覚はよくわかります。さらに言うと、原作の無い「実録物」と言われるような作品についても同じようなことが言えるのかなと思います。「実録物」って、実際に生きた人がいるわけなんだから、ちゃんと描くことが大事だと思っています。そうでないと、実際のモデルの人たちに失礼です。

吉田:その通りで、実録物の場合は、当事者たちにたいして誠実じゃないといけない。例えば今回の「ヒメアノ~ル」は実話を基にしたものではないけれども、いわゆる猟奇殺人事件を取り扱っている。しかし、そういう事件って当然、殺人鬼側もあるけど、被害者側もある。俺は、できるだけ、被害者側のことを忘れたくはない。どんなに殺人鬼側の悲哀や事情を描いたって、被害者や遺族からしたら、そんなの知らないよって話になる。そんなにつらいからって、お前こんなにたくさんの人を殺していいのかって話になる。

松枝:一方で、原作に忠実だからいいというわけでもないし、実録物で言えば、実際の事件通りのことを描けばいいってわけでもないですよね。実際に生きている各方面に配慮しつつ作った実録物映画が中途半端になったのを見たことがあります。あくまで作品だし、映画なんだから、そこは実際のモデルに配慮しつつも・・・。

吉田:そうだね。だから、配慮しつつ、リスペクトしつつ、自分の「好き」を貫くということが大事だと思うんだ。

松枝:映画「ヒメアノ~ル」も原作から考えると大きな改変がありました。

吉田:俺の中で信じたいのは、事件起こすような奴なんかでも、どっか戻ってこれる地点があったんじゃないかってことなんだ。そいつの隣に誰か居てやったら、手を離さないで居てやったら、ひょっとしたらそいつが殺人鬼になったのを止められたんじゃないかっていう思いを捨てられない。

松枝:わかります。僕もいつも思います。事件が起こるたびに。

吉田:うん。でも、みんなの手を握っていることなんてやっぱり無理だからさ、少なくとも大事な人の手だけでも離さないってことが大事だと思うんだ。「ヒメアノ~ル」はそういう映画にしたつもりです。

松枝:僕の感想なんですけど、吉田さんの作品って、「負けゆく者」に対する「愛」だと思うんです。「負け行く者」って、傍から見たらまぬけで滑稽で笑える。そうやって突き放して笑いつつ、でも馬鹿だなあ、それじゃ俺とおんなじだぞと優しく抱きしめる。そんな映画が吉田恵輔監督の作品のような気がします。

吉田:そうかもしれないね。なにしろ、俺は負け犬意識が強いので。いま、こんなに映画を撮れているし、負け犬なんて言うと、どんだけマイナス思考なんだって思われるかもしれないけど、それでも、本当に負け続けて来たからさ。だから、いまでも負けてる時の気持ちのままなんだよね。

松枝:僕、ワークショップをやって11年目になるんですが、ワークショップって、勝ってる人の来る場所じゃないんですよね。勝ってたらくる必要がない。みんながみんな負けているわけではないけど、負けている人や、負けかかってる人や、負けそうな人が来ている。傍から見ると、有名事務所にいて、代表作なんかもちゃんとあって、「おまえ勝ち組じゃん」って人も来てるけど、本人的には何らかの意味で負けかかっていて、負けんとしてあがいている、危機感を持って戦っている。そんな人の集う場所がワークショップだと思うんですけど、吉田恵輔映画的には故郷のような場所と言うか笑、だから、ワークショップでピックアップしてくれた何人かが吉田さんの作品で活躍しているのを見ていると、涙が出そうになります。

吉田:同情で使っているわけではなく、良かったら使うし、そうでなかったらだめだし。

松枝:うん、もちろんそうだと思っています。作品がよくなる人をちゃんとピックアップしてくれている。しかし、そっから先を考えてしまうんですよ。つまり、たまに作品に使ってもらうというのだけではなくて、その人が職業俳優として軌道に乗る状況をいかにして作るかと言うのに。やはりワークショップだけではそういうのは無理なんでしょうかね?

吉田:無理じゃないと思いますよ。本人に実力があれば。たとえば、「銀の匙」のときに俺が一番好きだったのが、岸井ゆきのちゃんなんだけど、彼女にやってもらったのは、ほんのちょっとした役なんだけど、できあがった映像見ると誰もが「この子良いねえ」って反応するんだ。そういう感じで、知られて行ってさ、俺も使いたいなって監督も出てきて、そのうちに、どんどん役が大きくなって、主演作が来るっていうのが、岸井ゆきのちゃんに関していえば実際に起こっている。そういうのをみると、本人に実力さえあれば、ワークショップでつかんだほんのちょっとのきっかけを糸口にして活躍できる道を開くこともできなくないと思うんだよね。

松枝:そういう時に、吉田さんの経験が参考になるかもしれませんね。20代負け続けた吉田さんが、思い残すことないようにと思って、「これで最後」と気合を入れて自分の「好き」を全力で出して作った最後の三本…になるはずの一本目が商業映画界における吉田恵輔映画の最初の一本になったという経験。

吉田:そうですね。

松枝:毎回「これが最後」と思ってやるというか、ワークショップなんかでも「ここでいい芝居をしてピックアップされなかったら終わり」というぐらいの覚悟でやるというか、そして万が一吉田さんの映画に出させてもらったら、ほんのちょい役でも、「この子良いねえ」と見た人に必ず言ってもらうような芝居をして、次につなげるぐらいの「最後の覚悟」を持って芝居をしてもらうというようなことをするというような、「一発で決める」ってそういう感じでワークショップに臨んでもらうといいのかなと僕は思ったりします。

吉田:そうですね。ちゃんとチャンスは転がってるんだしね。

松枝:ということで、今回もよろしくお願いします。

吉田:はい、面白い人に会えるのを楽しみにしています。

(2016年8月16日都内某所にて)

ワークショップについては次のURLをご覧ください。http://alotf.com/ws/vision004/