深作健太監督インタビュー201507


2015年8月13日から16日まで開催する「俳優のための実践的なワークショップ」の講師である深作健太監督にインタビューをしてきました。ワークショップに参加する方はぜひ参考にしてみてください。(聞き手:ワークショップ主宰・松枝佳紀)ワークショップの詳細については→深作健太監督による俳優のための実践的ワークショップ

松枝 深作さんにとって俳優ってどういう存在ですか?

深作 広くて深いとこからきましたね(笑)、僕は映画と演劇を、両方やらせてもらっています。その両方に共通する事なんですが、映画監督や舞台の演出という仕事は、簡単に言うと俳優さんの魅力を引き出す仕事なんです。自分の作品世界に俳優さんを呼んでくるのではなく、むしろ俳優さんの魅力によって作品世界が形づくられると思っています。監督によってやり方はいろいろあるでしょうが、僕は出逢った俳優さんからインスピレーションを貰って膨らませていくやり方のほうが好きなんです。だから、どんな俳優さんに出逢えるかが、作品作りにとって、とても重要な事になります。より刺激的な可能性を持っている俳優たちに会いたいというのが、ワークショップをやらせていただく理由ですね。

松枝 俳優との出会いの方法はオーディションでもいい。なのに、あえてワークショップをやる。それはなぜなんですか?

深作 僕がやる映画は「商業映画」というくくりになるんですが、そこでは俳優だけじゃなくて、監督もまたキャスティングされているわけです。雇われ監督なんですね。そこで行われるオーディションと言っても、無名の俳優に出逢える機会は少なくて、映画を商業的に成立させるべく、プロデューサーが、すでに名声の確定した、集客力も実力もある俳優をキャスティングするわけです。ところが、監督には別の欲望がある。これからの、しかし実力と魅力を兼ね備えた俳優を、秘密兵器的に出したいという欲望があるんです。とは言っても、そういう無名の役者が「商業映画」のオーディションに呼ばれる事は難しいし、呼ばれても、たった数分の会話ではよくわからない。それで、こういったワークショップというものをやらせていただいて、可能性を秘めたこれからの役者さんとそこで出逢いたいと思っているんです。さらに今回、松枝さんとのワークショップでは、作品をいかに一緒に作るかという事に挑戦したいと思っています。ひとつの作品作りを共に経験するという事が、俳優と監督が一番手っ取り早く理解しあえる方法だと思っていますから、どんな素敵な役者に会う事が出来るのか楽しみにしています。

松枝 作品作りは僕からお願いしたのですが、その時に深作さんが選んだ題材が結構「古典」と呼んでもいいような作品ですよね。どうして「古典」を選んだのですか?

深作 今の芸能界は、いきなり最前線に投入されるじゃないですか。昔みたいに下積みを経験しないから、「古典」や「翻訳劇」を学んだりする時間がないんですよね。昔から新劇の人達が大切にしてきたような「古典」なり定番なりの作品は、役者さんにとって「核」になると思っています。昔は、松田優作さんのような不良でも、劇団の養成所で下積みしているから自然に「核」となる「古典」に若いうちに出会っている。そういう意味で言うと、いまの若い人は不幸だし、これから映画界で活躍してゆく人にこそ、今のうちにそういった基礎を積んでおいて欲しい。そういう意味で、今回はあえて「古典」を選びたいと思っています。

松枝 しかし、なぜ、「古典」をやることが、俳優の核を作ることにつながるんでしょうか?

深作 「古典」に限らず、ある作品で〈役〉を演じる時は、プロの役者さんだったら、撮影初日や読み合わせまでに、入念な準備をしてきます。しかし、経験のない俳優は準備をしようにも、どうしていいかわからない。もちろん何も準備しない事が戦略的に有意義ならいいのですが、そうではなく、準備の仕方がわからない場合が多いように思うんです。セリフを覚えるというのはあたりまえですが、それだけではなく、与えられた〈役〉を演じるために、するべき下調べや取材、あるいはサブテキスト作り(※台本に書かれていない裏ストーリーを作ってくること)を本当はしておかないといけない。「古典」というのは、とっつきづらいです。だから、丁度いいと思うんです。セリフを覚えるだけではなく、演じるための下調べやサブテキストを作っておかないと、稽古初日に演ずる事さえできない。現場は学校じゃない。ワークショップ等で事前に俳優としての取り組み方を身につけておく必要がある。今回はあらゆる意味で、俳優としての「核」、基礎を見つけるきっかけにできればと思っています。

松枝 僕は、僕個人の演技塾をやっているんですが、そこでは「本物」になることを至上命題としていて、俳優は「本物」になることが仕事で、どう撮られるかは考えなくて良いといっています。どう撮るかは、監督とカメラマンさんの領域だからと。

深作 基本的には、僕もその方針に同意します。しかし僕は、俳優が自分自身をコントロールできる事も重要だと思っています。

松枝 そのあたりをもう少し詳しく話していただけますか?

深作 もちろん僕も俳優さんには本物の感情を求めます。しかしやっぱりどこかで本当じゃないんですよ、〈演技〉って。だって例えば僕たちは、人を殺せないし、変身しないし(笑)。作品によって、また監督によって、そのリアルの基準は全然違うと思うんですね。だから僕が俳優さんに持っていて欲しいのは〈スピードメーター〉なんですよ。

松枝 スピードメーター?それは芝居のリアルを測るスピードメーターってことですか?

深作 リアルだけじゃなくて、リズムとか演技全般に渡ってですね。スピードメーターのついていない車やバイクを運転する事を想像してみて下さい。すごくコワイと思うんですよね。時に芝居は全力でアクセルを踏まなきゃいけないし、あるいは低速でゆったり芝居を作らないといけない。それは速度だったり、リズムだったり、感情の強弱だったり、リアルの度合いだったり。良い役者というのは良いスピードメーターをもっていると思うんです。無闇矢鱈にアクセルを踏むだけじゃなくて、いま自分がどのぐらいの力で走れているかを把握できている。演出家が「もっとスピード出して」とか一々言わなくても、どこを目指しどういうテンポで走ろうとしているのか、どういう作品を作ろうとしているのか台本から把握してくれていて、自ら判断調節してくれる。

松枝 ああ、わかりました。たしかに、スピードメーターを持っていない役者は扱いが大変です。いちいち、このスピードでいいか、このテンポでいいかを演出家に聞いてくる。

深作 そうなんです。僕たち演出家はスピードメーターにはなれない。

松枝 演出家がそれに一々応えているとそれに時間がとられてしまって作品作りにかける時間が奪われてしまう。

深作 とくに時間のない今の映像の現場では、スピードメーターをもってない俳優は致命的になります。さっきの松枝さんの演技塾の話で言うと、「本物」であることを目指すのは正しいと思うんです。ただ「本物」と言っても人によって力の強弱の違いがある。この作品がどんな速度を求めているのか、いま自分がどういう速度で走っているのか、それを自分自身で把握できるスピードメーターを持つ事は、どんな現場でも必要な事なんです

松枝 しかし、どうやったらそのスピードメーターを手に入れられるのでしょうか?生まれながらの才能ということなんですかね?

深作 才能というのも重要な要素のひとつにはあると思います。しかし、やはり経験と知識じゃないでしょうか。だから今回のワークショップでも、最終的に一人一人スピードメーターを持って帰ってほしいと思っているんです。最大限のお土産はそれでしょうか。映像の現場に行っても舞台の現場に行っても使えるスピードメーター。もちろん作品や監督によって目指すものが違うだろうけど、どんな現場にいっても合わせることが出来るスピードメーターを、今回ワークショップに参加した方には持って帰ってもらいたいと思っています。

松枝 深作さんは、お父様に付き添って子供のころから現場に行っておられたと思うのですが、そんな深作さんから見て、この俳優は凄いと思った人がいますか?

深作 僕は子供の頃から真田広之さんが好きでして。兄貴みたいな存在でしたし。あの人バランスがいいんです。さっきのスピードメーターで言うと、かなり高性能なそれを確実に持っている。で、なんで彼がなんでその絶妙なスピードメーターを持つようになったかということを考えると、真田さんが師匠である千葉真一さんのそばにずっといて、千葉さんの芝居を見て育ったという事が大きいと思うんです。千葉真一さんは、僕のオヤジ(故・深作欣二監督)とデビュー作から一緒で、ずっとお互い支え合って作品を作ってきた人です。その千葉さんの息子みたいな存在が真田広之さん。僕も親父への尊敬と共に反発がありましたが、真田さんも千葉さんへの尊敬と共に反発もあったんじゃないかな。自分ならどうするかって。真田さんってすごくクレバーな人で、そしてまた、すごく繊細なんです。アクションの現場で、目の部分だけ当ててるライトがあったとしたら、アクションをしながら一瞬でそこに入る事ができる。一発でキメる。それってすごい運動神経とセンスですよね。映画俳優には大切な技術です。映像の現場では、たとえば食事のシーンでのおかずを食べる順番とか、あとで編集でつながらなくなっちゃうから、何度も同じ事を正確に繰り返さなきゃいけないわけですよ。それは感情を入れて本物の演技をするといった、没入だけでは絶対にできない事です。その役に入りながら、引いて、自分自身を見ているもう一人の自分がいて、しっかりコントロール出来ていないと。自分の演技をしっかり遠隔操作しているといいますか。で、それがちゃんとできる俳優が僕は名優だと思うんです。じゃないとアクションの現場だったら怪我させちゃったりしますしね。

松枝 そうですね。絶対にアクションはそうですね。本気に見えて本気じゃダメなんですよね。本気で憎んで殴ったら話になんないですもんね。

深作 そういう意味で、今回のワークショップでも、参加した俳優たちには、自分自身の演技を冷静に見つめられるようになって欲しいと思っています。
松枝 前に話したかもしれないんですが、僕の初めての現場が『バトル・ロワイアルⅡ』の東映の屋上でのお祓いの時だったんです。

深作 来てくださってましたね。

松枝 あの時、藤原竜也くんとかみんないる中で、お祓いが終わった時に、学校ノリだし学園物だからみんなワーッてなんか食いに行こうって騒いでる中、藤原くんだけ屋上にのこってスタッフ全員に挨拶してたんですよ、末端のスタッフ全員にひとりひとり。僕とかにもです。それを見た時に、ああ、主演をはる役者は違うなと思ったんです。彼を良く撮ってやろうってみんなが思うじゃないですか。

深作 『バトル・ロワイアル』って作品は本当に残酷で、沢山の若い俳優さんが参加していましたが、今も生き残るって続けられている人はそのうち何人かしかいない。映画のストーリーより、実際の芸能界の方がよっぽど『バトル・ロワイアル』なわけで(笑)

松枝 (笑)

深作 でも実は、残る残らないってオーディションの時から一目瞭然なんですよね。いつまでもこの世界で続けられている人というのは現場の居姿からして違っていた。普段の立ち居振る舞いが違うんです。だから、若い俳優に伝えたいのは、人と違う居姿の人間になれ、という事です。

松枝 わかります。しかし、それって完全に普段の生き方ですよね。

深作 そうなんです。残る俳優というのは、たぶん普段から興味を持ってるところが違うんですよね。見てるところも違う。つまり生き方が違うんです。

松枝 そういう意味で今回のワークショップは、作品を作ることを通して監督に知ってもらう4日間でもありますが、生き方を変える4日間という感じにもしたいなと思ってるんです。

深作 素敵ですね。ハードル高いですが、僕もがんばらないと。僕自身、いろいろなジャンルの作品をやらせていただいていますが、まだまだこれからですし、映画・演劇と線を引くのではなく、とにかくボーダーレスに、越境していきたいと思っているんです。僕の母親は女優でしたから、どうしても僕は役者さんの、普段の、〈素〉の顔が気になってしまう。演技している顔より、普段の顔の方が好きなんです。信じられるといいますか。〈素〉の自分と、〈演技〉している自分の境界線にこそ、〈役〉というもののリアリティが存在していると思うんですね。だから僕のダメ出しは、もちろん演技の部分についてなんですけど、同時に、本人の人間性もまたダメ出ししなきゃいけなくなる時がある。最初にも言いましたが、俳優さんの持っている魅力を最大限に引き出す事こそが僕の仕事なわけで、だから、一緒にひとつの作品を作る作業を通して、自然に作品を深めてゆけると思っているんです。何はともあれ、今は信頼できる素敵な仲間と出逢いたい。この人と一緒に作品を作りたいと、心から思える俳優と。今回はどんな出逢いがあるのか、心から楽しみにしています。

深作健太監督による俳優のための実践的ワークショップ

(2015年7月9日新宿にて)