4-9.世界市場への接続


マツガエ:現場は本当に時間が無いし、ある役にとっては、真実で演じてもらうよりも、「演技的な技術」でもって、わかりやすく、台本に書かれてあることを表現してもらったほうがいい場合もある。なので、うちのアクターズ・ヴィジョンでキャスティングが決まるのは、「真実」が出来る俳優ばかりとは限らない、むしろ脇役は真実なんかよりも「演技的な技術」を持ってる人が決まる傾向にある。ぱっと見で説明せずとも記号的に「田舎者」とか「不良っぽい」とか「変人にみえる」とかの絵的にわかりやすい印象があるということでキャスティングが決まったりすることが少なくない。

リエナ:キャスティングで「こういうタイプの人だよね」っていう決めつけがあるのは避けられないけれども、だけどその役の幅は、常にストレッチして、チャレンジしていけば自分で広げていける。それから、俳優の素晴らしいところって、歳をとっていくほど素敵になることなんです。ある事が出来なかった人が、歳をとっていくと人生の厚みが出て出来るようになったりする。味がでてくる。つまり、俳優って息の長い職業だから、つねに努力努力で、自分を耕し続けていかないといけない。言葉や文学など、日本の文化を理解していないといけない。さらに現代がどういう時代かというのも理解していないといけない。それプラス演技のトレーニングもやらなければいけない。全部やって初めて、どこに行っても通用する俳優になれる。だから、その全部ができるようになるプログラムを作れればなと夢みています。

ボビー:そのプログラムを作るとともに、そのプログラムを経て出て来た俳優たちが、ちゃんと日本の映画や世界の映画を支えるという実績を作っていかないと行けない。

リエナ:そうですね、世界を目指したいですね。前までは、字幕がないのが常識で、日本の俳優は英語が話せないと出演できないことが多かったんですけれど、今は日本語しか話せなくても字幕を入れれば大丈夫な流れになってきているので、日本人の俳優をどんどん送り出していきたい。日本がダメという意味ではないですが、海外に出て良いものを作ることを応援したいんです。

マツガエ:これまでは、どうしても日本映画は日本人にしか見られないから、日本の論理がまかり通っていて、演技論にしてもキャスティングの常識にしても金銭的な見返りの小ささにしても、世界的な基準からは切り離されていた。その中で、俳優演技も、メソッドやマイズナーテクニックなどの世界的な標準があまり重視されない状態だった。日本というマーケットは小さいので、そこでの儲けというものも小さく、監督や俳優たちもカゴの中の水車を回すハムスターのように休みなく映画を作らないと食べていけないというような状況だった。その状況を変えるには「世界的な配給網」を作るしかないなと僕は思っていた。しかし、ここにきてネット配信とかが当たり前になって、日本映画もドラマも世界のマーケットに手を伸ばせば届くようになってきた。だから、これからうまくすると、日本の映画やドラマを取り巻く環境は大きく変わる可能性があると思っています。俳優監督みんながクリエイティブに集中し、十分な見返りを得るような未来も可能だと思うんです。鍵は「世界に向けて作る」ということです。そしてその時にこそ、世界標準の演技術であるメソッドやマイズナーテクニックによる演技が、映画のクオリティをあげるためにも、世界と戦うためにも必要となり、日本の演技の標準になるときが来る。そう僕は思っています。

ボビー:奈良橋陽子さんがキャスティングを担当された「ラスト・サムライ」以降、日本の俳優たちが世界に知られるようになって、リアリズムのリの字も知らなかった人たちが、「世界に通用するレベルの演技とは何ぞや」と考え出すようになった。30年前と、「ラスト・サムライ」以降では、世界を目指そうとする俳優は格段に増えています。だから、いま松枝さんが言ったように、競争社会が生まれるようなシステムが、日本にも浸透するような未来が来るとすると、ほんとうに希望が持てます。ちゃんとした俳優を育てれば、必ず評価され、使ってもらえる。そうなる未来が来たときに対応できるように準備をしておかないといけない。

リエナ:私は、海外の演技のスタンダードを、日本でも追及できる環境を作りたいです。そして、日本の俳優さんと、日本の演出家さん、いろんなクリエイターたちが世界で活躍できることをサポートしていきたいです。昔からの仲間であるマサヤスや、新しく知り合った松枝さんと一緒に、現状を、より良い方向に変えていくことをやりたいです。やりましょうよ。

ボビー・マツガエ:ぜひ、やりましょう。

(2017年12月5日、森下文化センターにて)

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1.なぜアクターズ・ヴィジョンで俳優教育が必要になったのか

2.アップス・アカデミーとBNAWの違い

3.じっくり基礎教育に時間をかける

4.本当に俳優たちが学ぶべきもの、それを学べる環境に

5.マイズナー・テクニックやメソッドに対する誤解

6.普遍的な技能としての「リアリズム演技」

7.歌舞伎も「リアリズム演技」である?
 
8.アクターズ・スタジオで許された「嘘」

9.世界市場への接続

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米倉リエナ(Lyena Yonekura)
俳優教育者、アップス・アカデミー演技講師
芸能事務所Camino Real(カミノレアル)代表取締役。
ニューヨーク大学演劇学科で演劇を学び、日本人女性初のニューヨークアクターズ・スタジオ正式メンバーとなる。
帰国後は演出家としても活動しつつ、アップスアカデミーの講師をしている。
また、現在はCamino Real(カミノレアル)を設立しシャーロット・ケイト・フォックスやMIYAVIなど日本国内外の俳優のマネジメントに携わる。
2児の母。

ボビー中西(Bobby Nakanishi)
俳優、俳優教育者、演出家、BNAW主宰
コント赤信号のもとで俳優を始めるが1990年渡米
フィル・ガシーのもとでマイズナー・テクニックを学び
後に、サンフォード・マイズナー本人のもとで本格的にマイズナー・テクニックを学ぶ
アクターズ・スタジオのオーディションに合格し正式なメンバーとなる。
2011年に日本に拠点を移し、俳優教育の場BNAWを主宰している。

松枝佳紀(Matsugae Yoshinori)
脚本家、演出家、アクターズ・ヴィジョン代表
京都大学経済学部を卒業後、1995年、日本銀行に入行。
映画や演劇に対する夢覚めやらず2000年に退職
現在、シナリオライター、企画者、制作者として映画を作りながら
俳優のためのワークショップ「アクターズ・ヴィジョン」を運営している。