4-5.マイズナー・テクニックやメソッドに対する誤解


マツガエ:アクターズ・ヴィジョンでボビーさんのマイズナー・テクニックの授業をしていただくようになってから二年がたとうとしているのですが、結構な数の俳優さんたちが習いに来ていて、おかげで芝居が改善した俳優たちが監督ワークショップでも評価を受けるという成果を出しつつあって、そのうわさを聞きつけて、ボビーさんに習いたいとやってくる俳優がどんどん増えています。ところが、ボビーさん的には教育の質を守るためにも、ひとクラスの人数を増やしたくない。結果、面談をして受講できない俳優が少なからず出てきている。たとえばそういう人たちが、やっぱりどうしてもボビーさんところで学びたいと次の機会まで待ってくれると良いのですが、マイズナーテクニックを教えてくれるところならどこでも良いと、変な講師のところに行ったりするのが怖いです。ボビーさんのところで教育の成果が上がったのは、もちろんマイズナーテクニックの凄さもありますけど、やっぱり何よりもボビー中西の導きが素晴らしいからだというのは、二年間一緒に授業を見ていたからわかるんです。

リエナ:マサヤスはやっぱりサンフォード・マイズナーご本人から直接教わった人ですからね。マイズナーって、こういうことだろと、聞きかじったことで教えている人たちとは全然違う。

ボビー:右も左も分からない人が、そういう講師に当たってしまった場合、それがすべての判断基準になってしまう恐れがある。例えば、アメリカのクラスで、プライベート・モーメントの訓練の時に、ある女優が裸になったことを取り上げて、それがどこからか伝わるうちに、プライベート・モーメントとは裸になることであるという誤解を、何も知らない女優に教え、やらせてしまう。これはとても危険なことです。

マツガエ:マイズナーにしても、レペテションをやるのがもう嫌だという人がいるんです。というのも以前習った講師が、レペテションをやらせたらしいんですけど、相手を傷つける悪口を言えと言ったらしいですね。で互いに悪口を言いあう。もっともっと相手を傷つけろと言われる。傷つけあう。それで深く傷ついた女優さんはもう二度とマイズナーをやりたくないと僕に話したんです。そういう人たちがボビーさんのところへ行くと、本当はそうじゃないことがようやく分かる。

ボビー:マイズナーもそうだし、メソッドも、誤った方法で教えられたり、聞きかじったあやふやな知識でもっともらしく語る人がいるせいで、日本においても、もっと広がっていいはずの技術なのに中々広がっていかない。誤った理解のせいで、もともと実践術としてあるマイズナーやメソッドが、本番に活用されていかない。それがとても悲しい。

マツガエ:百聞は一見に如かずなんですよ。ボビーさんの授業を見に来たらいいんです。これ一日や二日だけじゃわからないから、step1で全12回、step3までで全36回、見に来たらいい。変わる人は恐ろしく変わる。最初は、演技は「ナニナニっぽく」見せることだと思っていた人が、真実の瞬間を生きるところを見ると、もう感激しかない。

リエナ:やっぱり何にしても時間ってかかるんですよね。演技は、地味で大変な過程を要するもで、焦って速く修得しようとしてもできるわけない。日々地道にやってからこそ結果がでるのに、目先の解決法に飛びつきがちになってしまいます。
 
ボビー:筋肉だって、毎日地道にトレーニングして、半年とかかけて作っていくのに、なぜみんな演技に関しては簡単な方法に飛びつこうとするのだろうね。それに、もっといい先生は探せばちゃんといて、NYとかでちゃんとシステマチックなものを学んだ人から学んで欲しい。NYっていい先生、悪い先生がうじゃうじゃいて、結局、自然淘汰でいい先生しか残っていけないんですよ。そういう競争社会が日本にはないじゃないですか。日本ではみんな蛸壺のように、いいも悪いもまぜこぜになってやっている。

マツガエ:それをどうにかして変えたくて「俳優教育者会議」をやってます。

ボビー:みんなで結束して動いていけば少しづつ現状は変化していくと思うんですよ。奈良橋陽子さんが70年代から積み上げてきた、メソッドやレペテション教育の知識と経験があって、今の僕たちがそれを受け継いで俳優教育をやっていて、みんなで流れを作ってきた中で、今、変革の機は熟してきていると思う。だからこの「俳優教育者会議」をきっかけに次は具体的なことを、みなさんと詰めていけたらなと思っています。

つづく

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1.なぜアクターズ・ヴィジョンで俳優教育が必要になったのか

2.アップス・アカデミーとBNAWの違い

3.じっくり基礎教育に時間をかける

4.本当に俳優たちが学ぶべきもの、それを学べる環境に

5.マイズナー・テクニックやメソッドに対する誤解

6.普遍的な技能としての「リアリズム演技」

7.歌舞伎も「リアリズム演技」である?
 
8.アクターズ・スタジオで許された「嘘」

9.世界市場への接続

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米倉リエナ(Lyena Yonekura)
俳優教育者、アップス・アカデミー演技講師
芸能事務所Camino Real(カミノレアル)代表取締役。
ニューヨーク大学演劇学科で演劇を学び、日本人女性初のニューヨークアクターズ・スタジオ正式メンバーとなる。
帰国後は演出家としても活動しつつ、アップスアカデミーの講師をしている。
また、現在はCamino Real(カミノレアル)を設立しシャーロット・ケイト・フォックスやMIYAVIなど日本国内外の俳優のマネジメントに携わる。
2児の母。

ボビー中西(Bobby Nakanishi)
俳優、俳優教育者、演出家、BNAW主宰
コント赤信号のもとで俳優を始めるが1990年渡米
フィル・ガシーのもとでマイズナー・テクニックを学び
後に、サンフォード・マイズナー本人のもとで本格的にマイズナー・テクニックを学ぶ
アクターズ・スタジオのオーディションに合格し正式なメンバーとなる。
2011年に日本に拠点を移し、俳優教育の場BNAWを主宰している。

松枝佳紀(Matsugae Yoshinori)
脚本家、演出家、アクターズ・ヴィジョン代表
京都大学経済学部を卒業後、1995年、日本銀行に入行。
映画や演劇に対する夢覚めやらず2000年に退職
現在、シナリオライター、企画者、制作者として映画を作りながら
俳優のためのワークショップ「アクターズ・ヴィジョン」を運営している。