4-4.本当に俳優たちが学ぶべきもの、それを学べる環境に


リエナ:あとは、今の俳優たちに活用できるものは何なのかを、教える側としては常に考えています。一つの方法に囚われ過ぎず、時代に合わせ、変えていく、進化させていかないと今の俳優たちに響かないですから。

ボビー:昔の俳優は、俳優座なり、文学座なり、どこかの養成所に行って1年間きっちり学んでいたけれど、今は時間の流れが速いし、トレーニングなんてやってる場合じゃない!という雰囲気があるから、みんな、速く速く!っていう気持ちが強くなるんでしょうね。

マツガエ:しかし、活躍している俳優たちと話すとやはり、教養があるというか、経験をしているというか、ひとつ役を演じるにしても掘り下げるための材料を持っている。そういう意味では、良き俳優になるには、演技だけを勉強していたらだめと言うか、いろんなことに興味を持つ必要がある。でもその興味というのも広く浅くではダメで、深いところに響いた「体験」になっていないといけない。だから、僕が今構想している者としては「俳優のための教養講座」というか、当然、「映画史」、「演劇史」は収めてないといけないし、全然関係ないように見えるかもしれないけど、例えば「俳優のためのジャズ講座」とかできないかなって思ってるんです。ジャズのことを勉強して、実際に弾いてみたりして、演技とは違うんだけど、ふと何かわかることがある気がするんです。でも、それ、僕はやりたいし俳優にとって大事な場所になる気がするんだけど、それを俳優たちが面白がってくれるのかなという心配はある。

リエナ:そういう豊かなものにこそ俳優たちが来るようにしたいですね(笑)

ボビー:新国立劇場の養成所では、3年間のコースで、色んな先生がいて、色んなことが学べる。あそこは国からお金がもらえるので、バイトに時間を割かないで勉強することができる。僕の理想としては3年間、4年間、オーディション禁止でそれだけのために生きる場を設けることですよね。そこで人間関係を育むこと、お茶や日舞や殺陣を習ったり、松枝さんのいうようなジャズを習ってみたり。そこでの日常は絶対に俳優として役立つと思う。

マツガエ:俳優を目指しているのだから映画や演劇を観なければいけないはずなのに、観に行くお金もなければ、バイトでそれを観に行く時間もないという人が多い。それってどうなんだろうって思ってしまう。

リエナ:国が支援するというのが物凄く大事なんだと思うんです。私がラッキーだったのは、NYの大学で演劇を学んでいたとき、学生は20ドルでブロードウェイや素晴らしい演劇を観ることができました。夏になるとフリー・シアターといって、野外でシェイクスピアの演劇などをメリル・ストープなどの名優たちが、なんと無料でやるんですよ。お金のためにやってない。教育的な意味とか、社会的な意味を考えてやっている。それもこれも、ベースに、国が支援するというシステムがあるからこそできることなんです。

マツガエ:映画や演劇って、見るほうも、作る側も、趣味でやっているみたいに日本では考えられていて、国の予算をガッツリ割いて俳優たちが映画を見るのを無料にしようなんて言おうものなら猛反対を喰らいそうな気がするんです。でも、実は映画や演劇って、社会にとって重要な「公共財」なんです。社会を円滑に回したり、いま自分がどんな時代に生きているのかを考えるために重要なヒントを与えてくれる、だから映画や演劇は嗜好品ではなくて、現代社会に生きるためには必需信なんだと思うんです。それを思うと、その映画や演劇を支えるべき俳優たちを育てるために国が予算をもっと割いたり、国民の寄付がもっと寄せられたりしても良いと思うんです。

ボビー:それが、僕とリエナ、そして新国立劇場の芸術監督になる小川絵梨子、僕たち日本にいるアクターズ・スタジオで学んだものの夢なんですよ。

リエナ:アメリカでは成功した俳優たちがアクターズ・スタジオに寄付をしていますし、グローバルチャンネルでインサイド・アクターズスタジオという人気番組がやっているんですが、その一部売り上げがアクターズ・スタジオに還元されていて、アクターズ・スタジオはそのお金で運営されています。だから、アクターズ・スタジオで勉強をする俳優はお金を払う必要はないんです。

ホビー:アクターズ・スタジオはいわば俳優たちのふるさと納税で維持されているわけですよ。だからそういうシステムが日本にもあればなぁと思いますね。それと、これから僕たちのところで成長していった俳優たちが、大きな金額を稼げるようになっていって、自分からアクターズ・スタジオみたいに、自分たちの「ホーム」にお金を寄付できるようになれば、俳優教育の環境もだいぶ変わると思うんです。

つづく

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1.なぜアクターズ・ヴィジョンで俳優教育が必要になったのか

2.アップス・アカデミーとBNAWの違い

3.じっくり基礎教育に時間をかける

4.本当に俳優たちが学ぶべきもの、それを学べる環境に

5.マイズナー・テクニックやメソッドに対する誤解

6.普遍的な技能としての「リアリズム演技」

7.歌舞伎も「リアリズム演技」である?
 
8.アクターズ・スタジオで許された「嘘」

9.世界市場への接続

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米倉リエナ(Lyena Yonekura)
俳優教育者、アップス・アカデミー演技講師
芸能事務所Camino Real(カミノレアル)代表取締役。
ニューヨーク大学演劇学科で演劇を学び、日本人女性初のニューヨークアクターズ・スタジオ正式メンバーとなる。
帰国後は演出家としても活動しつつ、アップスアカデミーの講師をしている。
また、現在はCamino Real(カミノレアル)を設立しシャーロット・ケイト・フォックスやMIYAVIなど日本国内外の俳優のマネジメントに携わる。
2児の母。

ボビー中西(Bobby Nakanishi)
俳優、俳優教育者、演出家、BNAW主宰
コント赤信号のもとで俳優を始めるが1990年渡米
フィル・ガシーのもとでマイズナー・テクニックを学び
後に、サンフォード・マイズナー本人のもとで本格的にマイズナー・テクニックを学ぶ
アクターズ・スタジオのオーディションに合格し正式なメンバーとなる。
2011年に日本に拠点を移し、俳優教育の場BNAWを主宰している。

松枝佳紀(Matsugae Yoshinori)
脚本家、演出家、アクターズ・ヴィジョン代表
京都大学経済学部を卒業後、1995年、日本銀行に入行。
映画や演劇に対する夢覚めやらず2000年に退職
現在、シナリオライター、企画者、制作者として映画を作りながら
俳優のためのワークショップ「アクターズ・ヴィジョン」を運営している。