4-3.じっくり基礎教育に時間をかける


マツガエ:BNAWは演技に特化し、アップスは総合的に学ぶということでしたけども、どちらも2年ぐらいの長いスパンで俳優が通うことを前提にされています。おそらく俳優教育という観点から考えると2年ぐらいは修行しないといけないということなんでしょうが、逆に言うと、うちのアクターズ・ヴィジョンでやる映画監督のワークショップに来るような俳優たちは、演技を学びたいというよりも、現場に出たくて仕方ないので、習得するために2年間修行しないといけないというのは、まどろっこしいと思われちゃうと思うんです。実際、ボビーさんにうちでマイズナーテクニックを教えてもらうにあたっては、そこのところを僕のほうからお願いをして、基礎の基礎は3ヶ月で終わるようにし、ボビーさんのBNAWで最短2年かかるプログラムも、うちでは超スピードで9か月で教えてもらうことになっています。それでも今すぐ現場に出たい俳優たちにとっては、9か月というのでさえ長くて、受けるのをためらう人も居ます。本当に時間をかけても学ぶ意味があると思える人しか参加しないという意味においては、結果として、本当に自分を変えたいと思う志の高い人だけが通うことになっていて、それ自体は良いことなんですが。

ボビー:本当は、しっかり時間をかけて学ぶということが重要だと思うんです、僕自身もネイバーフット・プレイハウスではマイズナーテクニックを3年をかけて学びました。アメリカでは2、3年下地を整えてから現場に行くというのが当たり前なんですが、今の日本の俳優は、すぐにプロダクションに所属して、すぐに現場に行きたいとか、すぐに舞台に出たいとか考える。基礎が中途半端なのに俳優が務まると考えてるからだと思うのですが、僕からしたらちょっと待てよとなります。まだ十代だったり、二十代前半なんだったら、2年間、演技の勉強だけをしっかりすれば、後々に活躍するために必要な、基礎ができるのに、今の人たちはなんの基礎訓練もせずに、戦いの場に出てしまう。結果として中途半端になってしまっている気がします。僕がネイバーフッド・プレイハウスに通っているときは、オーディションを受けたり、芸能活動をするのも一切禁止されていました。中途半端なレベルで現場に行ってはいけないのは当然だと思うのですが、どうも日本ではそうでは無いようです。

マツガエ:以前、「ソロモンの偽証」の成島出監督にワークショップをしてもらったことがあるんですが、成島さんはみんなに「売れていない今が修行のチャンスだ。売れてしまったら、自分の芝居を磨きたくてもそんな時間も余裕もない。いま、売れていないことをチャンスだと思え」と言っていて、その通りだなあと思いました。

ボビー:成島さんの言う通りですね。

リエナ:クラスにはいろんな人が居ます。でも、そのいろんな人を見ることによって人間はより成長するんです。だから、グループで一緒にやるっていうのはとても重要だと思っていて、でも、その一方で、個人のプロセスも築かないといけない。それを考えると、二年ぐらいはかかると思っています。

つづく

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1.なぜアクターズ・ヴィジョンで俳優教育が必要になったのか

2.アップス・アカデミーとBNAWの違い

3.じっくり基礎教育に時間をかける

4.本当に俳優たちが学ぶべきもの、それを学べる環境に

5.マイズナー・テクニックやメソッドに対する誤解

6.普遍的な技能としての「リアリズム演技」

7.歌舞伎も「リアリズム演技」である?
 
8.アクターズ・スタジオで許された「嘘」

9.世界市場への接続

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米倉リエナ(Lyena Yonekura)
俳優教育者、アップス・アカデミー演技講師
芸能事務所Camino Real(カミノレアル)代表取締役。
ニューヨーク大学演劇学科で演劇を学び、日本人女性初のニューヨークアクターズ・スタジオ正式メンバーとなる。
帰国後は演出家としても活動しつつ、アップスアカデミーの講師をしている。
また、現在はCamino Real(カミノレアル)を設立しシャーロット・ケイト・フォックスやMIYAVIなど日本国内外の俳優のマネジメントに携わる。
2児の母。

ボビー中西(Bobby Nakanishi)
俳優、俳優教育者、演出家、BNAW主宰
コント赤信号のもとで俳優を始めるが1990年渡米
フィル・ガシーのもとでマイズナー・テクニックを学び
後に、サンフォード・マイズナー本人のもとで本格的にマイズナー・テクニックを学ぶ
アクターズ・スタジオのオーディションに合格し正式なメンバーとなる。
2011年に日本に拠点を移し、俳優教育の場BNAWを主宰している。

松枝佳紀(Matsugae Yoshinori)
脚本家、演出家、アクターズ・ヴィジョン代表
京都大学経済学部を卒業後、1995年、日本銀行に入行。
映画や演劇に対する夢覚めやらず2000年に退職
現在、シナリオライター、企画者、制作者として映画を作りながら
俳優のためのワークショップ「アクターズ・ヴィジョン」を運営している。