2-4.アクターズ・ヴィジョンでやり始めたボビーさんのクラス


谷内田:松枝さんはずっと監督のワークショップをやってたわけですよね。それがボビーさんと組んで「俳優教育」もやるようになったのはどうしてなんですか?

松枝:アクターズ・ヴィジョンという名前を使いだしたのは2016年からなんですが、2005年からうちは映画監督を講師に迎えた俳優ワークショップをやる場所として12年間やっています。有名事務所に所属していない、いつもはオーディションに呼ばれない俳優にも凄い奴はいるかもしれないということで、無名俳優と一流監督をつなげることで奇蹟みたいな抜擢が起こればいいなと思って始めたのですが、さすがに12年もやってると、ちょろちょろとそういうことも実現したりして、うちが無ければキャスティングが決まらなかった人たちも出てきて、やってて意味があったなと満足する反面、何度も何度も参加してくれるのに、なんか引っかからない人が居て、そういう人たちは一様に、同じ問題を抱えている。それは何かというと、「考えすぎた演技をする」ってことなんですよね。生真面目に台本分析して「ここはこういう演技をするべきだ」というのを持ってくるんですけど、決め込んでくるから、共演者の芝居に反応できないし、風が吹こうが雨が降ろうが、変わらない芝居をするというか、全くライブ感のない演技をしちゃう。そういうのをどうすりゃいいかと思ってた時に、「サンフォード・マイズナー・オン・アクティング」という本を読んで、これだ!と思ったんですね。俳優たちの「考えすぎた演技」をどうにかするにはマイズナー・テクニックしかないって。で、じゃあ、日本でマイズナー・テクニックを教えられる人は誰だろうと調べてたら、何人かいて、どの人がいいだろうという探している中で、ボビーさんに出会って、うちで教えてほしいとお願いしたら快諾してくれて、それでクラスが始まったのが2016年の11月で。でも、お願いしたものの、いまとなっては失礼な言い方だけど、ボビーさんが本当に実力ある講師なのかわからないから、お試しみたいな感じで、いつでも関係解消できるような感じで、まずは2か月ってことで始まったんです。しかし、やり始めてみたら、俳優たちが見違えるように鮮やかな芝居をするようになるのが判って、ボビーさん俳優教育者として第一級品の本物だと確信した。今度12月21日から24日まで中目黒でやる芝居は、その僕がすごいと驚いたボビーさん教育の成果を披露する公演なんですけど、稽古場の最終日にやった演技があまりに凄かったので、ボビーさんに頼んでぜひこれをみんなに見せられるような公演にしてくれって。

谷内田:それは楽しみにしています。もうチケット買いました。

松枝:ありがとうございました。で、そんな公演をやるぐらいに、僕はボビーさんの指導による俳優教育の成果には驚いていて、最近は、映画監督のワークショップに参加する人の3分の1ぐらいはボビーさんの生徒たちになっていて、ちょっと前にはもうどうしたらいいかわからないような固い芝居の問題児たちの一部が徐々に柔軟な演技をするように変わっていて、監督から評価もされるようになっていて、本当にボビーさんと組んでよかったなと思っているんです。

梶原:それはとても意味のあることですね。

松枝:はい。ほんとうに。

つづく

——
0. はじめに

1. 谷内田さんが感じた俳優教育の必要性

2. 現場におけるアクティング・コーチの有効性

3. 梶原さんがアクターズクリニックを引き継いだわけ

4. アクターズ・ヴィジョンでやり始めたボビーさんのクラス

5. 教育で本当に誰でも変わりうるのか

6. ボビーさんと梶原さんのニューヨークでの俳優修業

7. 俳優を目指す人たちのために俳優教育者会議がすべきこと

——
谷内田彰久(Yachida Akihisa)
映画監督、演出家、プロデューサー
2016年10月MBS.TBS放送「拝啓、民泊様。」の原作および監督
2017年5月公開「ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。」で初長編監督
2017年11月公開「爪先の宇宙」監督

梶原涼晴(Kajiwara Ryousei)
アクターズクリニック代表、俳優、演出家
10年間に亘り広告代理店で営業経験を積んだ後、単身渡米。
ステラアドラースタジオにて2年間にわたり演技を学ぶ。
日本に戻り塩屋俊主宰のアクターズクリニックの講師となり
塩屋俊の死後、アクターズクリニック代表となる。

ボビー中西(Bobby Nakanishi)
俳優、俳優教育者、演出家、BNAW主宰
コント赤信号のもとで俳優を始めるが1990年渡米
フィル・ガシーのもとでマイズナー・テクニックを学び
後に、サンフォード・マイズナー本人のもとで本格的にマイズナー・テクニックを学ぶ
アクターズ・スタジオのオーディションに合格し正式なメンバーとなる。
2011年に日本に拠点を移し、俳優教育の場BNAWを主宰している。

松枝佳紀(Matsugae Yoshinori)
脚本家、演出家、アクターズ・ヴィジョン代表
京都大学経済学部を卒業後、1995年、日本銀行に入行。
映画や演劇に対する夢覚めやらず2000年に退職
現在、シナリオライター、企画者、制作者として映画を作りながら
俳優のためのワークショップ「アクターズ・ヴィジョン」を運営している。