1-5.俳優教育と俳優演出


(これはドラマ「anone」「先に生まれただけの僕」のディレクター水田伸生さんと俳優教育者ボビー中西さんの対談「日本の俳優教育のいまとこれから」の一部です)
 
水田:にしても、今回の公演は、ボビー、俳優教育者としてもそうだけど、演出家でもあるわけじゃない。そっちの腕も見せないといけない。俳優教育者としてのボビーは素晴らしいのは判ってたけど、実は、僕は疑ってたんだよね。果たして演出家としてはどうなんだろうと。でも、この間、僕のワークショップで、ボビーに芝居のできなかった俳優を演出してもらったじゃない?ボビーが導くと、できなかった俳優が見違えるようにできるようになった。あれは非常に感心した。ボビー、演出もできるんじゃないかって。この人は演出家なんだって思ったよ。

ボビー:教育者の一面と、演出家のスイッチって使い分けなきゃいけないって僕は思っているんです。種を蒔いて、肥料をやって、水をやって丁寧に育てていくのが教育者です。焦っちゃいけない。一方、演出も教育的な側面はあるにしろ、タイムリミットがあります。だから、本人が気づくのを待っているだけでは完成できない。もちろん、できるだけ、本人が気づくように導きますけどね。ある時に、こちらが力をかけて持ち上げていくことも必要なだと思っています。

水田:そういう意味ではボビーは教育者として慣れているから演出家になるために、いつもと違う力を使わなければいけないんだろうね。逆に僕はワークショップの講師をやって、へとへとになった。それは、いつもやっていない教育者という役割を演じないといけないからなんだ。ボビーの言葉で言うと焦っちゃいけないのが教育で、それというのは切り捨てずに待つことなんだけど、この「待つ」ということがだいぶ疲れる。教育は、演出とは全然違う筋肉を使う。

ボビー:でも、水田さんのワークショップを去年も今年も見学させてもらいましたけど、水田さんは空気づくりがうまいですよね、俳優がリラックスしていて、いい面が引き出されやすい。俳優は単純だから監督の導き方次第で良くも悪くもなる。だからいい空気を作ってあげられることは大事だと思います。

松枝:水田さんも、去年と今年ではやり方を変えておられていて、去年は4日間連続でやって、もう水田さんは烈火のごとく怒って、俳優たちを追い込んでいた。女子で泣かされたなかったものはいなかったぐらいでした。しかし、結果として4日目には皆の演技が花開いた。一方、今年は、水田さんはほとんど怒ることなく、逆にもうちょっと去年みたいに怒ってくださいと僕からお願いをしたぐらいでした。そして最終日にはボビーさんが来られて、水田さんとコラボした。水田さんが俳優を追い込むんじゃなくて、ボビーさんが俳優を追い込んで、ある壁を突破させた。あれは見ていて、ものすごいものを見させられたなと思いました。覚悟を持つ持たないで芝居が何倍も変わるんですよね。

水田:松枝さんは策士だからね、僕のワークショップで僕とボビーをコラボレーションさせたのは本当に有意義だったよね。ボビーも演出家だけれども、僕の隣では教育者になって俳優を導き出し、僕が演出をつける。ボビーのおかげでシーンに具体性が出たよね。

松枝:去年のワークショップの時は水田さん一人で演出家と教育者の二役を一人でやられてましたもんね。

水田:あのときは四日間で三キロ痩せたよ。でも物凄く勉強になったという実感があったから、今回のも引き受けたんだ。そこにボビーやシナリオライターの加藤正人さんが見学にきてくれて、コメントまでしてくれて、また一層勉強になった。

つづく

現在、水田伸生監督による俳優のための実践的ワークショップ参加者を募集中です!!!

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水田伸生(Mizuta Nobuo)
日本テレビ放送網執行役員・制作局専門局長
日本大学芸術学部演劇学科卒業後、1981年に日本テレビに入社。
入社後はテレビドラマの制作に携わる。
2010年、『Mother』で第65回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞を受賞。
2014年、『Woman』の演出により芸術選奨文部科学大臣賞放送部門を受賞。

ボビー中西(Bobby Nakanishi)

俳優、俳優教育者、演出家、BNAW主宰
コント赤信号のもとで俳優を始めるが1990年渡米
フィル・ガシーのもとでマイズナー・テクニックを学び
後に、サンフォード・マイズナー本人のもとで本格的にマイズナー・テクニックを学ぶ
アクターズ・スタジオのオーディションに合格し正式なメンバーとなる。
2011年に日本に拠点を移し、俳優教育の場BNAWを主宰している。

松枝佳紀(Matsugae Yoshinori)
脚本家、演出家、アクターズ・ヴィジョン代表
京都大学経済学部を卒業後、1995年、日本銀行に入行。
映画や演劇に対する夢覚めやらず2000年に退職
現在、シナリオライター、企画者、制作者として映画を作りながら
俳優のためのワークショップ「アクターズ・ヴィジョン」を運営している。

(2017年11月20日、麻布十番にて)

本文中に出てくるアクターズ・ヴィジョン主催マイズナーテクニック・クラスの成果披露公演「杏仁豆腐のココロ」(脚本:鄭義信、演出:ボビー中西、出演:武藤令子、関幸治)は、ウッディーシアター中目黒にて、12月21日から24日までやっています。チケット絶賛発売中です。詳細は次のURLより。http://stage.corich.jp/stage/86829/ticket_apply

0. はじめに
1. リアリティある演技をするためには何が必要なのか
2. 教育によって、天才俳優に近づくことが出来るのか
3. 俳優教育の重要性を日本人はわかっていない
4. マイズナー・テクニックの効果
5. 俳優教育と俳優演出
6. 俳優を志す人たちに対するアドバイス