1-3.俳優教育の重要性を日本人はわかっていない


(これはドラマ「anone」「先に生まれただけの僕」のディレクター水田伸生さんと俳優教育者ボビー中西さんの対談「日本の俳優教育のいまとこれから」の一部です)
 
ボビー:アメリカでは、「いい俳優になる」と「売れる」という方程式がきちんとあって、だからアメリカの俳優たちは、良い事務所に入るとか有名な監督と知り合うとか、日本の俳優たちがやってることをせずに、「いい俳優」になるための演技のトレーニングをまず積もうとするんです。それはきちんと台本が読めるようになるとか、そこに描かれた人物をリアリティを持って演じれるようになるかとか、そういうことなんですが、そういう訓練をきちんと積もうと考えるんです。

松枝:残念ながら、日本では俳優になろうとすると、どの俳優学校で演技を学ぶとかそういう話をするよりも、どの事務所に入ろうかとか、どの事務所がテレビ局にパイプがあるとか、だれだれ監督にコネがあるとか、そういう話になってしまいますよね。俳優教育の重要性を日本人はわかっていない可能性が高い。

ボビー:ちゃんとした訓練を受けた俳優が評価されるようになると、日本も変わってくると思うんです。アメリカは、キャスティングはオーディションが普通だし、どういう役者が評価されるかというようなことに透明性があるし、コネとかを持っていない若者も、演技さえ磨いておけば、チャンスがある。芸能界で立ち回ることよりも、自分の演技を磨こうと、若い人もキャリアのある人も思っている。そして演技を磨くことはどんなに歳を取った人でもやっている。僕自身の理想は、そういった俳優たちが演技を磨こうと思った時に集える場所、いつでも場所と演技講師、演出家、映画監督と仲間が集っているアクターズ・スタジオのような場所を日本に作ることです。アカデミー賞を獲っても、70歳、80歳になっても、アメリカのプロの俳優たちはアクターズ・スタジオで切磋琢磨して技を磨き続けている。もともとエリア・カザンにしろ、リー・ストラスバーグにしろ、50年代からのほとんどのハリウッドスターたちをアクターズ・スタジオが生み出してきた。そういう場所、演技を勉強し続けられる場所、俳優たちのホームを、僕は教育者として、水田さんのような理解のある監督たちや松枝さんと作りたいと思っているんです。

水田:日本には、ちゃんとした演技を習う場所が無いんだよね。だから、今まではみんな自主トレでやってきた。すべてが自己流で、しかも監視眼がないから「なまける」わけだ。で、続かない。さっき話した、まれにいる氷山の一角の人たちは、「なまけない」。もちろんセンスも大事だけれども、センスだけじゃなくて、実は「なまけない」ということが大事なんだと思うんだ。だから、どうしても「なまけたく」なってしまう僕らのような凡人にとっては、「なまけられなくなるような場所」が必要で、それがアクターズ・スタジオのような場所なんだろうなと思う。

ボビー:結局、俳優の仕事って、ほとんどが裏のワークです。現場やオーディションに入る前に、裏のワークをどれだけやってきてるかが明暗を分ける。準備が大事なんです。しかし、僕がアメリカから帰ってきて本当に思ったのは、準備のやり方がわからないで苦しんでいる俳優が、日本にはたくさんいることでした。たとえば、マイズナーテクニックやアクターズ・スタジオの方法を学べば、このキャラクターはこういう風に作るとか、自分と役をどのようにリンクさせれば嘘なく演じられるかとか、ちゃんとやり方があるわけですよ。だけど、日本ではそれを教えてくれるところが無い。オーディションにしたって、アメリカの俳優たちは「学びの場」だと教えられるんです。人前で演ずることはチャンスだと。だから僕も生徒たちに言うんです。「受かろうと思ってオーディションを受けてくるなよ。なにかを試す場所として利用しろよ」って。五分間でも人前で芝居をやらせてもらえる演技の機会として捉えるんだよと。

水田:そういうオーディションを受ける心構えすら日本の俳優は教えてもらってないんだよね。教えてくれるところが無い。事務所に所属しても、事務所は演技を教えるところではないから、俳優は自己責任で自分の演技を磨いていくしかない。しかし、どこに行って学べば良いかわからないというのが現状なんだよね。

つづく

現在、水田伸生監督による俳優のための実践的ワークショップ参加者を募集中です!!!

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水田伸生(Mizuta Nobuo)
日本テレビ放送網執行役員・制作局専門局長
日本大学芸術学部演劇学科卒業後、1981年に日本テレビに入社。
入社後はテレビドラマの制作に携わる。
2010年、『Mother』で第65回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞を受賞。
2014年、『Woman』の演出により芸術選奨文部科学大臣賞放送部門を受賞。

ボビー中西(Bobby Nakanishi)

俳優、俳優教育者、演出家、BNAW主宰
コント赤信号のもとで俳優を始めるが1990年渡米
フィル・ガシーのもとでマイズナー・テクニックを学び
後に、サンフォード・マイズナー本人のもとで本格的にマイズナー・テクニックを学ぶ
アクターズ・スタジオのオーディションに合格し正式なメンバーとなる。
2011年に日本に拠点を移し、俳優教育の場BNAWを主宰している。

松枝佳紀(Matsugae Yoshinori)
脚本家、演出家、アクターズ・ヴィジョン代表
京都大学経済学部を卒業後、1995年、日本銀行に入行。
映画や演劇に対する夢覚めやらず2000年に退職
現在、シナリオライター、企画者、制作者として映画を作りながら
俳優のためのワークショップ「アクターズ・ヴィジョン」を運営している。

(2017年11月20日、麻布十番にて)

0. はじめに
1. リアリティある演技をするためには何が必要なのか
2. 教育によって、天才俳優に近づくことが出来るのか
3. 俳優教育の重要性を日本人はわかっていない
4. マイズナー・テクニックの効果
5. 俳優教育と俳優演出
6. 俳優を志す人たちに対するアドバイス